「別れさせ屋は違法じゃないの?」「別れさせ工作の契約なんて、そもそも無効では?」
別れさせ屋への依頼を考えたとき、あるいは依頼してトラブルになったとき、こうした疑問を持つ方は多いと思います。
先に結論を書きます。別れさせ工作の契約が無効かどうかを裁判所が判断した例は、公表されたものではわずかです。その一つである大阪地裁の判決は、その事件については「公序良俗に反するとまではいえない」として契約を有効と判断し、依頼者に残りの料金の支払いを命じました。ただし同時に、工作の方法によっては無効になりうる、という考え方も示されています。
この記事では、裁判所のウェブサイトに公開されている判決文を口コミnaviが読み、事実関係と判断をまとめました。あわせて、別れさせ屋が関わったそのほかの裁判例と、判決から読み取れる依頼前の注意点を紹介します。なお、当事者の名前などは記載しません。
大阪地裁 平成30年8月29日判決|別れさせ工作の契約は無効か
どんな事件だったか
判決文によると、事案はおおむね次のとおりです。
- 依頼者は、以前交際していた女性との復縁を望んでいた。その女性に新しい交際相手ができたため、二人の交際を終わらせる工作を探偵業者に依頼した
- まず、交際相手の男性を調べる調査委託契約を結んだ(報酬10万8000円)。調査で男性の人相と住所が特定された
- 次に「別れさせ工作委託契約」を結んだ。契約期間は約3か月、着手金80万円、目的を達成したときの成功報酬40万円
- 業者は、依頼者・女性・男性の全員が独身であることを確認していた
- 工作の内容は、当初は女性工作員が男性に近づいて恋愛感情を持たせる計画だったが、依頼者の提案で、男性が工作員と「浮気」している事実を女性に伝える方法に変わった
- 女性工作員と友人役の工作員が、電車内で二人に声をかけ、その後喫茶店で「浮気」の事実を伝えた
- その約2か月後までに、女性と男性の交際は終わった
- 依頼者は着手金のうち50万円を支払ったが、残りを支払わなかった。業者は残金70万円(着手金の残り30万円と成功報酬40万円)を求めて提訴。依頼者は、契約は公序良俗に反して無効だとして、支払った60万8000円の返還を求めた
一審の大阪簡易裁判所は業者の請求を認め、依頼者が控訴しました。
裁判所の判断
大阪地裁は控訴を棄却しました。つまり、依頼者が負け、残金70万円と遅延損害金の支払いが認められた一審の判断が維持されました。主な判断は次のとおりです。
- 契約は公序良俗に反しない:想定されていた方法は「人倫に反し関係者らの人格、尊厳を傷付ける方法や、関係者の意思に反してでも接触を図るような方法」とは認められず、実際の方法も工作員が男性と食事をするなどにとどまったため、「関係者らの自由な意思決定の範囲で行うことが想定されていた」として、「公序良俗に反するとまではいえない」と判断した
- 目的は達成された:「浮気」を伝えた時期と交際が終わった時期から、交際の終了は業者の工作によるものと推認され、成功報酬40万円の請求が認められた
- 着手金の減額・精算の主張は認められなかった:依頼者は「短期間で終われば着手金を精算する約束だった」と主張したが、認められなかった
- 業者の債務不履行(報告義務違反・不適切な工作)はなかった:業者は進み具合や交際の終了を依頼者に伝えており、工作も依頼者と協議しながら行われていた
どんな場合に無効になりうるのか
この判決は、別れさせ工作の契約がすべて有効だと言ったわけではありません。判例解説(城内明・摂南大学准教授、2019年)によると、一審の大阪簡裁は、別れさせ工作のすべてが公序良俗に反するとはいえないとしつつ、次のような場合には公序良俗に反することがある、という考え方を示しています。
- 契約の目的
- 依頼者や対象者など関係者の配偶者の有無などの状況
- 工作の内容や方法
これらが、著しく社会的相当性を欠き、当事者の意思決定の自由を奪ったり、ゆがめたりするときです。
この事件では、関係者が全員独身だったこと、工作員が男性と肉体関係を持った事実がないことなどが考慮されています。同じ解説は、関係者の人格や尊厳を傷つける工作や、ねつ造した証拠を見せて関係者の判断をゆがめる工作などは公序良俗違反になりうる、と指摘しています。
肉体関係を前提にした工作の法的なリスクは、ハニートラップの依頼は危険?でも解説しています。
この判決からわかる、依頼前に確認すべきこと
この判決は、業者と依頼者のどちらにとっても教訓になる内容です。依頼する側の立場から、確認しておきたい点をまとめます。
「違法な契約だから払わなくていい」は通らないことがある
依頼者は契約の無効を主張しましたが認められず、残金と遅延損害金を支払うことになりました。工作の方法がこの事件と同じような範囲にとどまる場合、契約は有効と判断される可能性があります。支払いを止める前に、消費生活センターや弁護士に相談してください。
無効になっても、払ったお金が戻るとは限らない
民法は、不法な原因のために給付をした者は、その返還を請求することができない、と定めています(民法708条)。ただし、不法な原因が受け取った側にだけあるときは、この限りではありません(同条ただし書)。
「成功」の判定方法を、書面で決めておく
この事件では、「浮気」を伝えた時期と交際が終わった時期から、裁判所は工作による成功と推認しました。何をもって成功とし、どう確認するのかを、契約前に書面で決めておいてください。
着手金の精算や上限は、口約束にしない
「早く終わったら着手金を精算する」という依頼者の主張は、裏付けがなく認められませんでした。料金に関する約束は、必ず契約書に書いてもらってください。
工作の方法を自分で提案すれば、その結果も引き受けることになる
この事件では、「浮気」を伝える方法は依頼者の提案でした。裁判所は、業者が依頼者と協議しながら工作していたことなどから、工作が不適切だったとはいえないと判断しています。
報告は記録に残しておく
調査や工作を任せる契約では、依頼者が求めれば、業者は進み具合を報告しなければなりません(民法645条)。この事件では、業者が報告していたことが、業者側に有利に働きました。依頼者の側も、LINEやメールでのやり取りを残しておくことが大切です。
そのほかの裁判例・事件
工作員が、近づいた女性を殺害した事件(東京地裁、2010年)
元夫の依頼を受けた探偵会社の社員が、工作員として偽名で女性に近づき、離婚が成立したあとも偽名のまま交際を続け、最終的に女性を殺害した事件です。東京地裁は懲役15年の判決を言い渡しました(求刑は懲役17年)。報道によれば、裁判官は判決にあたり、別れさせ工作について「不法のそしりや社会的非難を免れない」と述べたとされます。
別れさせ屋への依頼が懲戒事由にあたるとされた例(東京地裁 平成27年9月9日判決)
会社員が別れさせ屋に依頼したことなどを理由に懲戒処分を受け、その処分の妥当性が争われた事件です。判例解説によると、裁判所は別れさせ工作について、うその言動で相手の自己決定を誤らせる行為であって「社会通念上相当とはいえない」とし、金品の授受やプライバシーの開示、性的関係が生じた場合には不法行為となりうると述べました。そのうえで、別れさせ屋に依頼したこと自体が、犯罪の成否は別としても、企業秩序を乱す懲戒事由にあたると判断しています。依頼したことが勤務先に知られれば、仕事に影響するおそれがあるということです。
探偵の無断撮影がプライバシー侵害とされた例(京都地裁 平成18年1月24日判決)
判例解説によると、調査対象者の自宅マンションの配電盤にビデオカメラを設置し、出入りする人物や対象者の容貌を無断で撮影したことが、プライバシー侵害にあたると判断されました。調査の方法によっては、違法とされることがあります。
別れさせ屋への返金を求めた訴訟(2012年、仙台地裁に提起)
判例解説によると、別れさせ工作の契約が公序良俗に反するとして、支払ったお金の返還を求める訴訟が2012年12月に仙台地裁に起こされたと報道されています。判決は公表されていません。
依頼者が被害にあった事件
業者の担当者が依頼者に不当な要求をし、刑事裁判で実刑判決を受けた事件は、別れさせ屋の探偵会社社長に7年の実刑判決で紹介しています。
法律との関係(まとめ)
- 公序良俗に反する法律行為は無効(民法90条)。別れさせ工作の契約も、方法によっては無効になりうる
- 不法な原因のために払ったお金は、原則として返還を求められない(民法708条)
- 探偵業法は、他の法令で禁止されている行為ができるようになるわけではないことと、人の生活の平穏を害するなど個人の権利利益を侵害しないことを求めている(6条)。調査の結果が犯罪行為や違法な行為に使われると知ったときは、業者はその業務を行ってはならない(9条1項)
- 相手に無断でGPS機器を取り付ける行為は、恋愛感情などを満たす目的で行えば、ストーカー規制法の「位置情報無承諾取得等」にあたる可能性がある(2条3項)
依頼すること自体の考え方は復縁屋や別れさせ屋に依頼するのは違法なの?、場面別の法律と相談先は復縁屋・別れさせ屋のトラブル|場面別に使える法律と相談先にまとめています。
よくある質問
Q.別れさせ屋は違法ですか?
A.口コミnaviが確認した範囲では、別れさせ屋という業種そのものを違法と判断した公表裁判例は見当たりません。ただし、工作の方法によっては、契約が公序良俗に反して無効とされたり、犯罪や不法行為になったりします。
Q.契約が無効なら、払ったお金は返ってきますか?
A.返ってくるとは限りません。不法な原因のために払ったお金は、原則として返還を求められないとされています(民法708条)。大阪地裁の事件では、契約は有効とされ、依頼者は残りの料金の支払いを命じられました。
Q.依頼者も責任を問われますか?
A.違法な方法を業者にそそのかせば、依頼者も刑事責任を問われることがあります(刑法61条)。また、東京地裁平成27年の事件のように、依頼したことが勤務先での懲戒処分の理由になった例もあります。
まとめ
- 別れさせ工作の契約が無効かを判断した公表裁判例は少ない
- 大阪地裁平成30年8月29日判決は、その事件では契約を有効とし、依頼者に残金70万円と遅延損害金の支払いを命じた
- 工作が人の尊厳を傷つけたり、関係者の判断をゆがめたりする場合には、無効になりうる
- 無効になっても、払ったお金が戻るとは限らない(民法708条)
- 依頼するなら、成功の判定方法、着手金の扱い、工作の方法、報告のしかたを書面で確認する
「裁判になれば何とかなる」とは考えず、契約前に書面で確認することが、いちばんの自衛策です。
出典
- 裁判所ウェブサイト 裁判例検索「平成30(レ)57 工作委託料等請求控訴事件」(大阪地方裁判所 第19民事部、平成30年8月29日)
- 城内明「別れさせ工作委託契約と公序良俗」新・判例解説Watch 民法(財産法)No.159(TKC、2019年2月1日掲載)
- 弁護士ドットコムニュース(2024年6月2日)
- 民法・探偵業法・ストーカー規制法・刑法の条文(e-Gov法令検索)
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